いさぢちんメモ

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猫にはなれないご職業(ガガガ文庫)

猫にはなれないご職業 (ガガガ文庫)

猫にはなれないご職業 (ガガガ文庫)

陰陽師の家系、藤里家に生まれたが、そうとは知らされず育った桜子。彼女の最後の肉親であり凄腕の陰陽師だった春子が亡くなり一人ぼっちになってしまったが、そんな彼女を影から見守るものがいた。春子の相棒として藤里家と共にあった猫又、タマである。春子が亡くなったことで彼女がかつてタマと共に封印した八尾の妖孤が解き放たれ、宿願である九尾となるために力のある桜子を付け狙う。桜子を守るため、タマは強大な妖孤に立ち向かおうとしていた――。

そんなお話。

物語は猫又のタマと桜子の友人である腐女子の命(みこと)の二つ視点によって語られます。複数視点というのは厄介で、うまくやらないと「誰が語ってるかわかんねーよ!」って事になったりして、古くは聖エルザのように誰視点かを明記するような手法もあるのですが、かつては斬新な手法だったそれも今となってみると小説としては興がさめる事もあり、やはり文体で切り替えを見せて欲しいと思うところ。その点、この作品においてタマと命の視点切り替えは読んでいてすぐそれと分からせるように、あえてタマの語り口調をおっさんというか堅苦しいものにしているというのもあるかもしれません。堅いタマと普通の女子高生である命の語り口調のギャップの妙が、楽しさだけでなくリーダビリティにもプラスになっていると感じます。また、タマは猫でおっさんで陰陽師であるため、普通の女子高生という視点を読者に提供する事により、物語に入りやすくする意図も感じました。このあたり実に巧妙ですね。

すこし残念なのが、命の腐女子描写や、意外と俗っぽいタマの現代知識が作品の雰囲気を損ねているように感じましたが、そのあたりはコメディ要素ってことで、そういった部分がないと「最近のラノベ」の味がでないのかもなーと。しかしコメディとシリアスの切り替えはしっかりとしているし、タマの人間臭い部分を上手く描写してキャラクター性を増強し、感情移入もしやすいキャラに仕上がっているので、総合的にはバランスのよい配分だったのかもしれません。あと命の腐女子趣味が「隠しきれていると思っているのは自分だけでクラスの皆には全部バレてる」みたいなのって結構リアリティありますね。

物語は大きく分けて二話構成で、一話は妖孤から桜子を守るために命と協力して撃退する話。二話では桜子の家に起こった過去の悲劇を軸に、呪いをテーマに話が綴られています。最後にはただ守らているだけのヒロイン桜子が、己の立場を自覚し物語を解決へと導いていくのも成長物語的でよいですね。

ところで、過去に桜子を妖孤から守るために犬神となった飼い犬の清十郎ですが、捨て犬が他の兄弟を踏み台にしても生き残るというのは、それだけ強い個体であるというだけなく、呪術的には蠱毒でもあるわけでして。清十郎が強力な犬神となった理由をそんな感じでさり気なく文章に忍び込ませるあたり、この作者はそっち方面がかなり好きなんだろうなあ、と思いました。ぼくも大好物なので、とてもよい作家に巡りあった気分です。第6回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞の新人作家だそうで、今後の活躍にも期待したいです。

大変おもしろかったです。☆5つ。