いさぢちんメモ

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4月に読んだ本

isajiさんが2012年4月に読んだ本 - ブクログ
うち、いくつかオススメ作品を紹介。

森の魔獣に花束を

今月のちょうオススメ。

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

名家に生まれたが生まれつき体が弱く、絵を描くことしか出来ない非力な少年が、後継ぎ問題から魔獣の棲む森へ青い薔薇を探しに行く試練を課せられ、そこで人食い魔獣であるアルラウネの少女と出会う物語。

少年の描く絵が物珍しく興味本位で少年を生かしていた少女、食べられないように保身から少女の顔色ばかりを窺ってばかりの少年。だが共に過ごす内に次第にお互いを思いやる気持ちに芽生えていき、それがいつしか掛け替えのない物へと成長していく。

おとぎ話のようなファンタジー世界での、少年と魔獣の少女との出逢いと交流をえがいた心温まる優しい物語。異種間での交流物は永遠に別れることになる展開が好みなのですが、優しい物語だけに何らかのペナルティを負っても共に生きたいというのもアリなんじゃないか、そう思わせるものがありました。癒やされます。

落涙戦争

落涙戦争

落涙戦争

人を泣かせる商売「泣かせ屋」の中でも屈指の実力を誇る母親を持つが故に、生まれてから一度も泣いたことがない主人公。ある日突然、主人公に「彼を泣かせたら賞金三千万円」という懸賞金が掛けられ、お目付役としてやってくる「泣かせ屋」の少女、ホトトギス。彼女との共同生活の中で次々と全国から「泣かせ屋」があの手この手で主人公を泣かせようとやってくる。

そんなお話。舞台となっている京都大学周辺の地理描写が大変に緻密で引き込まれ、さらに奇抜な作品世界のもつ独特な雰囲気に飲まれ、気付いたら、これちょっといい青春ストーリーじゃないですかー、と。なんとも言えない読後感を味わいました。

デキる神になりますん

デキる神になりますん (ファミ通文庫)

デキる神になりますん (ファミ通文庫)

引き篭もりネット廃人化した神様が、斜陽の温泉街の寂れた温泉宿を建て直そうと奮闘するお話。
上で紹介した「落涙戦争」と同じく森田季節さんの作品ですが、この人の作品には一貫して神様や宗教に対しての一種独特な世界観が埋め込まれているような気がします。この作品は特に、そのまんま題材が神様なので分かりやすい。作品世界としては、この世界の神様は一種の平行世界的な場所からやってくる人の上位存在を神と定義しているように思われ、その「あちら側の世界」は「かみちゅ」的なほのぼのしたファンタジー世界のようでもあり、現実世界と変わらないもののようでもあり、そのあたりのバランスちょうどよく読んでいてもちぐはぐな印象を感じない優れた土台だと感じました。

またキャラクター的にも引きこもりの神様として書かれる「くらがりさま」が大変可愛らしくダメっ子で、ネット浸けになったニートのように特殊な略語を繰り出し笑いを誘います。
ところでこの神様、なんの神様かは明記されていません。当初は引きこもりなだけに「くらがり」から「暗がり」を連想しましたが、自身が蔵として機能する「おおくらさま」なる妖怪じみた生き物を使役していることもあり、「くらがり」→「倉借り」から倉の神様かもしれないと思いました。倉に住む童子の姿をした神様といえば御蔵ボッコ、一般的に知られるものでいうと座敷童のバリエーションですね。昔語りの座敷童のように斜陽の温泉街に富をもたらすことが出来るでしょうか、続きも楽しみです。

ところで、あまり本筋とは関係ないのですが、多くの創作物でお稲荷様が狐の姿で描かれている事に不満を感じていましたが、この作品ではその辺りをしっかりと混同された経緯を説明して違和感を抱かないようにしていたのがポイント高いですね。

うちの魔女しりませんか? 3

うちの魔女しりませんか? 3 (ガガガ文庫)

うちの魔女しりませんか? 3 (ガガガ文庫)

人間とは異なる種類の生き物「魔女」が存在する世界で、地球に現存する最後の魔女との出会いと別れを描いた1巻の後日談。
今回は、絶滅危惧種として保護されている魔女という視点ではなく、不吉な存在として忌避されている土地での魔女の扱われ方が焦点になっています。平たく言えば、不幸な境遇にあり心を固く閉ざしていた少女が、主人公との出会いを機に、健気にがんばって自分の居場所を見つけるストーリー、とそんな感じでストレートに泣かせにくるタイプのお話で、定番といえば定番だけれど、それゆえ心に響くというのもあります。
このシリーズは毎度ラストを綺麗に締めてくれるのがいいのですが、今回の魔女はいったいどんな選択をするのか、そのあたりが見所です。