いさぢちんメモ

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3月に読んだ本

今月読んだ本はこんな感じ。
isajiさんが2012年3月に読んだ本 - ブクログ
うち、幾つかピックアップしましょうか。

今月の一押し

ROUTER(桜ノ杜ぶんこ)

ROUTER(桜ノ杜ぶんこ)

「二四〇九階の彼女」や「妄想ジョナさん。」で知られる西村悠さんの新刊。
幻想病という、人の願いを現実にする病により人類が滅んだ世界の終末ロードノベル。記憶を失った少女ルータが長い眠りより目覚め、彼女の目覚めを待っていた少年シノツクとともに、夜だけ夏祭りが催される人のいない街、滅亡した世界の中で何故か活気に満ちた街など、幻想病により変質した世界を旅し東京を目指す。西村悠さん独特の雰囲気が味わえる作品で満足でした。

ゴーストハント(新装版)

数年前にアニメ化された際に原作を読んでみたかったのだけれど当時すでに絶版で、気になりつつも忘れていていつの間にかリライトされて完全版として出版されていたので1巻の旧校舎怪談を購入。単行本サイズなので手に取りにくく、長いこと放置してしまいましたが、先月1巻を読みはじめたらあまりの面白さに止まらなくなりまして、7巻一気に読んでしまいました。

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (幽BOOKS)

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (幽BOOKS)

旧版は未読なのでリライトでどのように変わったのか分からないのですが、1巻は文体が緩すぎて児童書めいていますが、2巻以降は落ち着いた文章になっていてライトノベルとして充分読めるものとなっています。ホラー、オカルト物としては基本ロジカルに解決するのが今どきのラノベのようで、古いラノベ作品を読んでいるとは思えないほど。登場人物もキャラが立っていて現在のキャラ重視の作品群と比べて遜色なく、飽きずに読むことが出来ます。若干、主人公の麻衣が少女小説の読者向けで自己投影ありきというキャラクター造型に思えるのが気になりますが、それも巻を重ねる毎に薄れてきます。シリーズ中最もお気に入りなのは6巻の「海からくるもの」。いつもチート性能で解決してしまうナルが不在の状態で奮闘する愉快な仲間達という体が大変面白く、普段邪険にされがちなぼーさんや綾子が大活躍するストーリーでもあります。物語の舞台となる吉見家の家系を辿る描写が複雑で要メモ帳だったりしますが、その細部に凝った描写のおかげで臨場感が増していて物語へのめり込んでしまいます。
ゴーストハント 7 扉を開けて (幽BOOKS)

ゴーストハント 7 扉を開けて (幽BOOKS)

そして全ての謎が明かされる最終巻。閉じ込められた廃校舎のなかでぼーさん達とナルの正体に言及するくだりから、一人ずつ仲間が消えていく描写、そして浄霊シーンまで転がるような急展開に目が離せません。ナルの兄の捜索と廃校舎の霊という2つの事件をこなしながらも物語の主軸は麻衣の恋の行方だったりするのが実に微笑ましいですね。
このシリーズはロジカルなオカルトものとして読む事も出来るし、麻衣のラブストーリーでもあるわけで、オカルト物とは言っても作中起こる怪現象はほとんど恐い物ではないので、あまりオカルト耐性がない人でも安心して読めると思われます。
各巻完結物ですが、1冊ずつ買っていくと真夜中に続きが気になって苦しむので全巻まとめて買いましょう。

屍鬼

ゴーストハントつながりで小野不由美さんの作品をもうちょっと読みたいと思いまして、お手頃そうな屍鬼を読みはじめました。全5巻。こちらも読みはじめたら止まらず物凄い勢いで全部読んでしまいました。

屍鬼(一) (新潮文庫)

屍鬼(一) (新潮文庫)

さて、ゴーストハントを読んでいたときも感じたのですが、どうもこの作者の地理的描写とは相性が悪いらしく、文章から地理を想像するのに苦労します。読んでいるうちにだんだん整合されてくるのですが、1巻の読み始めは苦労しました。また、散発的に村内の場面が描写されるため、どの程度の意識レベルで読めばいいのかはかりかねる部分も。ようは熟読して完全に描写を把握するか、一応読むだけは読んで場景を把握するにとどめるか、みたいな。
とりあえずはじめは、閉鎖的な外場村の雰囲気を味わいつつ、さくさく死んでいく人を眺めて楽しむエンタメ作として読む事にしました。読む際に主人公格に視点を据えるか、村民全体を俯瞰するか、はたまた屍鬼メインで見るか、どの立場のキャラクターに感情移入するかで見方が変わってくる部分があると思います。たとえば、主人公格の夏野や静信を主軸に見ると、周囲の人間関係がメインの物語でそれがボーイズラブ的にも読めるし、村内の描写を主に追えば、ディテールの凝った村人の排他的意識を美味しくいただけるような、そんな色々な味が楽しめる作品だと感じました。
ちなみに僕の一番のお気に入りのキャラは竹村タツさん。日中の村の出入りを監視し村人の噂話にも詳しく村内の異変にいち早く気付きながら何もせず、最終的に物語が大きく動く直前にあっさり村を去って行くおばあちゃん。シビれますね。

ところで、この作品がアニメ化している事にしばらく読み進めてから気付いたのですが、キャラクターの名前でググって出てきた画像を見て、そんなものはなかった事にしました。あれはないわ。

ミニスカ宇宙海賊

アニメ作品「モーレツ宇宙海賊」の原作ライトノベル

ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ)

ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ)

アニメを見てから興味を持って読みはじめた作品。読んでみると、いかにアニメが丁寧に作られているか気付かされますが、それはそれ。やはり原作小説のほうが細部の描写が勝る。アニメにハマったのなら原作読みましょう。
最近これ言いにくい言葉なんだけど、いかにも古き良きライトノベルという雰囲気で、銀英伝やタイラーを読んで育ったおっさんラノベ読みにもきっとオススメ。

今月の新刊から

見て下さいこの表紙。

くずばこに箒星〈2〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)

くずばこに箒星〈2〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)

凄まじい表紙オーラです。もちろん、表紙がどれだけ良くても内容は全く関係ないのですが、この作品の表紙オーラは伊達じゃなかった。

成績優秀者に付与されるグレードチェアや、廃遊園地を再利用した学園、学園の創設者であり「クロニック・デジャブ」なる常に過去を繰り返す病に冒された科学者の母親、そんなファンタジックで超科学なガジェットが散りばめられた世界で、成績優秀者で完全記憶能力者の主人公は学園の問題児の吹き溜まり「おそうじ部」の面々と共に、学園の謎、行方不明の母親の手がかりを探して奔走する。そんな第1巻では席次にこだわり問題児を見下していた主人公が、クズと呼ばれる「おそうじ部」の面々の温かい心に触れ次第に価値観を変えていく物語でもありました。

くずばこに箒星 (くずばこに箒星シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

くずばこに箒星 (くずばこに箒星シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

2巻では、記憶を失った自称メイドロボの少女の依頼でご主人様探しをし、一方で取り壊しが決定した蒸気機関車を救うため再び走らせようと活動を開始する。そんな2つの事象の間に浮かび上がる、モノに宿る記憶の研究を行なっていた主人公の母親。さらに、かつて学園経営から追いやられた事から意趣返しを企てる組織の影が。完全記憶能力の主人公、クロニック・デジャブの母親、記憶を失った少女、物に宿る記憶と人の記憶との入れ替えなど、主に記憶にまつわる事象が軸になっています。
それだけでなくクズと呼ばれながらも前向きに生きる登場人物たちのひたむきさに心を打たれます。登場人物が生きたライトノベルらしい青春モノ。おすすめです。